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思い出の一枚 part 7 - 虹と共に去りぬ

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思い出の一枚 part 7 - 虹と共に去りぬ
誰にでも思い出の一枚とよべる写真があるはずです。
・・・・・・・・・
いつになく今日は暑い。
夏の日だった。
彼女と僕は赤いプジョーのオープンカーで走っていた。

普通女性は日に焼けるのを嫌がり、
オープンで走るのを嫌う人が多い。
しかし彼女は違っていた。

太陽が眩しい位暑い日はもちろん、
今にも雨が降りそうな日であっても、
降ってさえいなければ屋根は要らない。
そんな感じの女性だった。

昨日些細な事で喧嘩をした。
だから今日は会話が無い。
札幌から旭川に向けて高速を走っていた。
30分以上黙って走り続けた。

「オープンにして!」
彼女が初めて口を開いた。

「ここは高速道路だよ。
次のパーキングエリアまで我慢して…。」
そのまま10分ほど走りパーキングエリアに着いた。
ドアを開けようとすると、
「先にオープンにしてから行って!」
そう言われた。
言われたとおり屋根を開けると、
雨が降りそうな雲行きの悪い天気だった。

「あ〜空気が美味しいわ!
狭い車内で一緒に居ると息が詰まりそう…。」
この言葉を聞いて僕達の関係は既に重症だと感じた。

外で一服して戻り、
車を発進させた。

20分位走ったところで雨がポツポツ降って来た。
しかし次のパーキングエリアまで後5分程かかる。
車を停めるかどうするか?
迷っているうちに本降りになった。
慌てて端に停めて屋根を戻した。
その間約30秒。
しかしかなり濡れてしまった。

後部座席にいつも置いている袋からバスタオルを取り出し、
彼女に渡そうとすると、
「ほっといて!」
「心の汚れを洗い流しているんだから。」
そう言った。

そのまま5分程走った頃、
天気は回復し晴れてきた。
「こういう時は素晴らしい虹が出るんだ!」
僕がそう言うと、
彼女は何か軽蔑したような顔で僕を見た。
それを気がつかない振りをして走っていると、
左手に大きな虹が現れた。
なかなか素晴らしい虹だった。

しかしパーキングエリアまではまだだいぶ距離がある。
それまでこの虹はもたないきっと。
「あ〜虹が消えてしまう。」
僕がそう言うと、
彼女はまたさっきと同じ様な顔をして僕を見た。
でも僕はそんな事は気にせず、
車を停めれないか考えた。
しかしさすがに交通違反をしてまで端に停める気はない。

ちょうど前方にバス停が見えた。
もちろん高速バス用の停留所である。
一般車両は停めてはいけない。
しかし安全に停めれる場所はそこしかなかった。
後ろからバスが来ていない事を確かめてから、
そこに停めた。

直ぐに屋根を開けた。
そして後部座席からカメラを取り出し、
車の中で撮影体勢に入った。
そしてシャッターを切ろうとした瞬間、
ファインダーが暗くなった。

眼を放して見ると、
彼女の手がレンズを覆っていた。
「写真と私とどっちが大切なの?」

「またその話かい。
その事は昨日話したじゃない。」

「だからどっちが大切なの?
答えてよ!」

「……。」

僕は何かを話そうとしたが、
ちょうどその時短くサイレンが鳴った。

「そこに停まって何してるんですか?」
「すぐにそこから移動して下さい。」
もちろん警察官の声だ。
僕は彼らに軽く頭を下げてから、
左の空を見た。

既に虹は消えかかっていた。
そして彼女の顔を見ると…
これは見ない方が良かった。
今でも時々その顔を思い出してうなされる事がある。
まさに悪夢だ。

その後全く会話は無く、
旭川駅に着いた。
彼女は降り際に一言、
「私は虹と共に消えるわ!
さようなら。」
そう言った。

僕はオープンにしたまま、
「Air Supply」を聴いた。
僕が20代の頃の懐かしい曲だった。
「Lost In Love 」
ちょうど二十歳の時に聞いた曲だ。
この時も大失恋した。

でも失恋も十数人迄は覚えているが、
それ以上は忘れた。
人間の一番優れた才能は忘れる能力だと思う。
その才能が無ければ、
僕はとっくに死んでる。

歌っている間に美瑛町に入り、
白金街道を走っていると、
素晴らしい虹に出会った。

車を道路の端に停めて撮影した。
今度は誰も邪魔しない。
素晴らしい虹が撮れた。

この瞬間僕の気分は高揚していた。
他の事は全て頭から消えていた。
もちろん彼女の事も。

車に戻って思いだした。
「写真と私とどっちが大切なの?」
空を見ると虹は消えかかっていた。

「虹と共に去りぬ」
思わずそう呟いた。


「虹」 - 北海道美瑛町

ケント白石
北海道を世界に売り込む侍写真家
Professional & SAMURAI Photographer Kent Shiraishi
ケント白石 写真家の宿「てふてふ」
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